長野県 奥蓼科温泉郷 ~その後~
奥蓼科への旅。その後。
長野県は俺にとって未知そのものだ。
それもそのはず普段は家からまともに出ずに、しこたま天井を見上げてるだけなんだから。ボーっとするのが楽しいんだからしゃあない。
俺にとっては幸せな時間なのである。
ある日、行きつけの美容師に毎日何してるのと聞かれて、それを喋った。
が、心もとないその美容師は「そのうち天井に穴あくんじゃねえの?(笑)」と鼻で笑ったので、フリーターはブチギレた。
「髪切りながらおしゃべりして食うメシはうめえか?」
『登山』と『BBQ』が趣味という彼と俺は永遠に分かりあうことはないだろう。
アウトドアという言葉を聞くだけでAnkerのアンプでダンスミュージックを垂れ流しながら、肉を食らうという名目で女を食う美容師の姿が想像できてしまう。
美容師は全員ヤ●チン。バカの俺でも知ってる。
鏡越しでさわやかな笑顔で俺の髪を切る彼は実は獣なのだ。
草食動物は黙っていよう。
…。
前置きはさておき。
長野の奥蓼科で温泉街を発見した後、ついでだし行ってみるかと地図を見ながら携帯で温泉を一つずつ調べ始めた俺。
怪しい仏様?のようなオブジェがくっついたこの地図を見てみると今俺がいるところからさらに奥に進むと温泉がある。
ここまでは車で来るのが普通のルートだと思っていたが、登山コースとしても一部で有名らしい。といっても車道の横に申し訳程度に舗装された道があるだけだった気がする。
来るときは雪のない季節にしたほうが賢明だ。
でもなぜこんなとこに温泉と思っていたけれど謎は解けた。
きっとここで登山をした人が汗を流すために温泉があるのだろう。
よし!!せっかく来たしひとっ風呂浴びよう!!
美容師嫌いは車を走らせた。
趣があるどころではない温泉宿が1件あった。
まず目につくのは併設されたものすごくアンバランスなバス待合所。
巨漢の俺が入ったらドリフのオチみたいになりそう。
茅野駅ってのが近くにあるのか。
そこがここらへんの拠点駅というか、来やすいところにあるのね。
しかしバスが運行してるならもう少し人の気配があってもいいはずだけど…
アカーーーーーーーーーーーーン!!!
嫌な予感はしたけどやってねええええええ!
もしかしたらと思って他の温泉宿も調べてみましたけど、案の定休みと営業時間外ばっかでした。
……どうしよう。
悩む、悩む悩む、考えろ考えろ。温泉浴びに長野に来たわけでもないしさっさとあきらめて、うちに帰るか。それともわざわざここまで来たしほかのところめぐって帰るか。
とはいえあまり長居しすぎると、電灯もない山の中を夜に走るのはまずい。
ひとまず山を出て考えるか。うんそうしよう。
頭の中を整理して、温泉をあきらめてまず山を出ようを車に乗り込んだ。
直後。脱輪しました。
路肩にとまろうとしたら側溝が雑草に囲われて見えずにそのまま車輪がドハマり。
災難に次ぐ災難。
さすがにこんな山奥にJAF呼ぶの嫌だし、自分でなんとかしてみようと試みて何とか脱出。
ほっとしたのもつかの間、周りが暗くなりはじめ、フリーターは長野の暗い暗い闇に飲み込まれていった…。
道が暗すぎて先が見えない。
車も人も通らない。看板もよくわからない。周りは小高い山。コンビニどころか家もない。
詰んだ。田舎ってこんな怖いんか。
思わず声が出る俺。
「うわああああああああ助けてくれええええ…!!!
家に帰りたいんだ!はやくこんな田舎から出たい!
マック食べたい!温泉なんてどうでもいいからはやく、はやくここから出してくれーーーーー!!!」
『 Welcome to NAGANO 』
…
ここは茅野駅。
なんとか暗黒マウンテンを抜け出した俺は、脱輪に次ぐ脱輪のあまりの疲れで宿をとり、次の日に帰ることにした。
茅野駅では、高校生たちがワイワイとはしゃぎ、適度に人が歩いていた。
居酒屋や外食店、ホテル、デパートなど一通り駅前っぽい店が立ち並んでおり、「ここは長野か…!?」と見間違うほどであった。
諏訪湖や白樺湖、そして御射鹿池を見に行く方々は休憩がてら寄って行くのもよいと思う。
心身ともに壊滅的なダメージを受けた俺は、死んだ魚のような目をしながら帰路についた。ひきこもりには家のベッドが一番安らぐ場所のようである。
無事家につき、携帯を見てみると1件のラインが。
美容師「ういーす!!最近こないけどしんでる?笑
てかBBQするからうちこない?(サングラスかけた絵文字)」
マジでやめてくれ。